【ネタバレなし】映画「天気の子」の神社に供えられたナスとキュウリ

※メインストーリーのネタバレは書いていません。メインストーリー外での映画の設定についての考察を書いています。

子ども向けではない新宿のリアリズム
映画「天気の子」を観に行ってきました。新海誠の過去の作品「雲のむこう、約束の場所」を思い起こされるような世界がどうかなってしまうような世界観は面白いと思った。
大人が見るアニメだと思った。それはみてみればわかると思う。子ども、小学生ぐらいの子と一緒に見に行くと大人は、説明に苦しむ箇所が数点あるのであまりおすすめしない。
しかしながら、そういう意味で「新宿」のリアリズムがよくかけていると思った。

詳細に練り上げられた背景風景の表現
また、キャラクターの設定を風景によって描写するというのは面白いと思った。東京のそれぞれの場所が持っている特質、イメージから、その人の背景を描き出しているようにみえて興味深い。
しかも、そこがどの場所であるのかは、その風景に描かれた建物によって「わかる人にはわかる」というもの。ある意味、とんでもないオタク気質丸出しの細かいディテールにこだわっているものであることは確かだと思う。物語の基軸として描かれているドコモタワーと新宿御苑、それがどのような角度で見えるのかで、今いる場所がどこなのか、ビルの上にある神社がどこにあるのかが推測できるというのが興味深い。
ヒロインの陽菜がビルの上にある神社を見つけるとき、ある高層階の建物にいたが、そこは私が実際に以前行ったことがある病院であることがわかったので、それが新宿のどの辺りか、ドコモタワーとの方向と距離感からだいたい、あそこらへんだろうと脳内グーグル・マップで想像していた。それが後半に地名ありの説明で答え合わせができた。「ここはどこでしょう?」といった感じで風景が映し出され、その後大体の場所の答え合わせもしてくれる親切な映画なのかもしれない。

「君の名は。」との関連について
その人が住んでいる場所、利用している場所を細かく風景に再現することで、その人のキャラクター像や、社会関係的な性質を浮かび上がらせることができている点は素晴らしいと思う。
ただ、そうした、風景や小物のディテールが細かく良くできているからこそ、そちらに集中してみてしまい、肝心の物語に集中できなかったことが残念なのかもしれない。
また、映画で描き出されている世界が一体どんな世界で、いつの時代の話なのかということを、前回大ヒットした「君の名は。」の素材を出すことで描き出している。予告動画で雑誌をペラペラのめくるシーンがあるが、そこで一瞬映し出された記事の内容は、「君の名は。」に出てくるティアマト彗星のことだからだ。下記の予告動画(4:10)のところに出てきます。一瞬なので見逃してしまうかもしれません。
つまり、この映画は「君の名は。」の世界の話なのである。建物や風景はほぼ、我々の住んでいる世界とほぼ同じものだが、そこで起きている事象は「君の名は。」の世界であるということだ。これをこっそりと予告動画に挟んでくる新海誠のやらしさに惚れる。


Youtubeの再生開始を4:00からにしています。

ナスとキュウリの謎
と、ここまで、この映画の前提と、細かいディテールでの描写を踏まえた上で複数の謎が発生する。
一番、不可解なものが、神社に供えられた、お盆のときに祖先が乗るナスとキュウリでできた牛と馬である。精霊牛と精霊馬というらしい。
これがあることで、季節はお盆であるということがひと目でわかる。そしてもう一つ、この神社は陽菜以外の誰かが関わっているということだ。誰かが神社を管理しているのか、何者かが参拝したのか。
鳥居は赤色で、赤色といえば、伏見稲荷に代表されるように、お稲荷さんが祀られているイメージがある。(このお稲荷さんというのが物語の一つのキーであり、一つの象徴であることが映画のなかでも語られている。ネタバレほどの情報でもなく、多くの人は見ていても忘れている要素であると思う。)

一体だれが供えたものなのか。状態からして、干からびていないので、最近何者かが供えたものであることは確かである。
お供えしたものになぜそこまで過剰に反応するのかという点に関して言うならば、「君の名は。」ではお供えされた「口噛み酒」が重要なキーとして描かれていたからだ。そのことを考慮に入れると、こうした神聖なお供え物や、神話、昔話というものが新海誠の作品のなかで重要な位置を占めている可能性が高いと判断するのは決して見当違いのものではないと思う。
そして、「君の名は。」から拡張された世界の話を描き出したと仮定した場合の「天気の子」はおそらく、このお話のみで終わる話ではないのではないかという気にさせる。つまり、続きがある。もしくは「天気の子」の話と同時並行的に進行している、別の話が実はあるのではないかと思う。

リゾームに膨れ上がるストーリー群?
「東京の異常気象」というトピックに対して複数の方向からアプローチをかけるお話の第1弾が「天気の子」で、次の作品がまた別の、まだ我々のしらないキャラクター、もしくはもうすでに「天気の子」の中にこっそりと映り込んでいるモブのようなキャラクターを主人公に話を展開させていく可能性があるのではないかと思った。つまり、新海誠は複数の映画をリゾームのように関連付けて作っていこうとしているのではないかということだ。というのも、回収されていない伏線があまりにも多すぎて私は見終わったあとになんとも言えない消化不良を起こしてしまったからだ。あと数回みれば納得する答えが出てくるのだろうかと思いながらも、多くの伏線は回収されないだろうと思っている。つまり、話の規模や世界観は壮大でありながら、「日常」と「非日常」の話を数本の映画から描き出していくというものである。

ずっと続く雨がなぜ起きているのか、(これは、陽菜が何らかのアクションを起こす前から起きていたことであるし、主人公の帆高とも関係がないように思える)まさに不思議な現象である。
そして、精霊牛、精霊馬を供えた人物がだれなのか。
謎は深まるばかりです。ぜひ、映画館でこうした些細なディテールの点も確認をしてもらいたいところです。
でも、まずはメインのお話を楽しんでいただけたらと思います。

GORILAX
コラムニスト ふと湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。社会学、文化人類学の視点からもアプローチしていきます。