ガイアの夜明け「大戸屋ブラック批判」に疑問点!?

テレビ東京の番組で「ガイアの夜明け」というものがある。私はほぼ毎週観ている。
ネットで炎上していた大戸屋の特集も観たが、はたしてそこまで社長を批判すべき内容だったろうかと疑問に思う。

大戸屋「誠実に受け止める」 ガイアの夜明けで「ブラック」批判

https://www.j-cast.com/2019/12/13375019.html J-CASTニュース(2019年12月13日掲載)

テーマは「残業時間を45時間以下にする」というもの。番組で特集されていたのは3人店主。
A店主は働くの大好き。大戸屋が大好き。残業してでもたくさん働きたい。愛社精神の塊

B店主は残業して働くようなことはしたくない。個人の時間を大切にしたい系

C店主は残業して残業手当を稼がないと生活がやっていけない。収益重視系

職場によくいる3タイプを密着しているので番組構成は面白かったです。
ちなみに私自身のポジショニングは、新卒当時は「愛社精神の塊系」でしたが、いまは「個人の時間を大切にしたい系」で落ち着いています。だからこそ、逆にB店主に対しては厳しい目で見てしまうかもしれない。

※以下に書いていくことはあくまで番組をみて感じたことであって、大戸屋の社内現場で調査したものでもなければ、大戸屋という会社がどの様な会社であるかということを述べたものはございません。ただ、番組をみて指摘したいことはある。

やり玉に挙がっていた社長ですが、そもそも社長は大戸屋のバイトから店主になり、現在は社長をしているという方でした。つまり、経営者一族の息子といったものでもなく、どっかの大企業でコンサルみたいなことをして降って湧いたような社長でもないということです。
その会社のバイトの人が社長になったというストーリーは夢があり良いなと思いました。
しかしながら、社長が働いていた時の大戸屋と社会の常識が、いまは崩れ去っていて全くあたらしい社会のなかで大戸屋を経営しなければならないという点はかなり大変そうだなと思いました。
長年自分がやってきた成功パターンでは通用しないわけなのだから、苦労すると思います。

それぞれの店主をみて思ったこと。
愛社精神の塊 A店主
素直に、大規模繁盛店をまわしている技量がすごいんだと思った。外国人を含めた多くのバイトを雇い調整するのは大変だと思う。

多くのバイトをつかって現場をまわしたことがある人なら、当日にバイトの人が来ずに代わりに、正社員が現場に出て対応せざる負えなくなるという経験は当たり前のようにしてきていると思う。だからこそ、二重、三重の保険を掛けたようなシフトづくりをしたいところだが、なかなか人材が確保できないのでそこまでうまくできない。
バイトがいつも来てくれるということは何の確証もないことであり、すぐに「個人的などうしても仕方がない理由」によって休むし、あっけなく飛んでいく人は後をたたない。
そして、「バイトが来ないのでお店がまわりませんでした。」ということは絶対にあってはならないことなので、店主がそこは責任をもって出勤しないといけない。

A店主の場合は、そうした困難な職場状況であってもその状況をクリアしていくことに快感を覚えるタイプなのかもしれない。追い込まれた状況であってもそれを切り開いたときの快感はたまらないものがある。「このアドレナリンがガンガン出ている状況がやめられない!」というのも私も同じような状況になったことがあるので理解できる。

ただ、私は思うのだが、それは仕事としてすべきことなのか?という疑問がある。
ゲームやスポーツ、ボランティアなどなんらかの個人の趣味として、「困難に打ち勝ち達成感を得る」ということをするのは大いに賛成である。しかしながら賃金労働でそれをすることが必ずしも良いとは言えない。
なぜならば、賃金労働の多くは一人で完結するものではないから。

賃金労働環境では周りを巻き込んだ形でなされざる負えない。自分だけがモウレツに頑張って職場をまわしていくということは、まわりの労働者へ知らずのうちに迷惑をかけている可能があるからだ。

多くの賃金労働において重要なことは、誰かが何らかの理由で抜けたとしても、うまくまわしていくことができる仕組みづくりであると思う。個人の趣味で過剰な頑張りを見せることは本社へ評価されやすく良い事かもしれないが、もし、何らかのかたちで抜けてしまったときにその職場環境はどうなるのだろうか。

A店主の様な人はなかなかいない。だからA店主のかわりになる生贄をつくってとにかくその場を回そうということになるのではないか。それは職場の崩壊につながるので避けるべきことであると思う。だれもができるかたちに仕事を作り変え、マニュアルを整え、業務を共有することが大事だよな、と思う。

しかし、そうしたことを現場の社員にさせる余裕はない。これは断言できる!だからこそ本社側が職場の業務フローを再構築してマニュアル化と研修をする人を現場に派遣して数ヶ月掛けてやっていくことなのではないのかなと思う。

そんなことをするコストがどこにあるのか!?と思うかもしれないが、バイトが入っては辞めるということの人件費の損失コストが下がり、作業効率があがるのであれば今すぐにでもすべきことだと思う。でもしないよね。想像力と創造力が欠如してるしサスティナブルな思想を理解する知性が発展途上だから、しないよね。本社がどうしてもできない現状もよくわかる。でもそれでいいのだろうか。

個人の時間を大切にしたい系 B店主
残業を減らして、個人の時間を確保していきたいという思いがあるのはいいことだ思う。
タイミーという短時間バイトサービスを組み込むという事自体も悪いことではないと思う。

でもこの人、なにか便利なツールがあればすぐに飛びついて使うけど、すぐにコレは「たいしたことない」と結論づけて、次はまた違うツールに飛びついて同じ様な結果積み重ねていくだけで成長しない感じの匂いがして個人的には一番拒絶反応を示すタイプではある。

なぜ、せっかくあるツールを補強したり、改造したりしてカスタマイズしないのだろうかと思った。タイミー用のマニュアル、紙や動画で短時間でやる業務をレクチャーする工夫はみられないし、そもそも割り当てる業務は通常のバイトと同じホールの接客でいいのか?という疑問点もある。

超短期でやってもらう業務は「ベストエフォート型」の業務であると思う。つまり、そこまでの技術を要しない仕事、頑張ればなんとかなる仕事。だから例えば、一つの業務を簡単なものに作り変えるために、既存の業務を分断し、簡単な業務にする。そしてその業務ごとにA4サイズの紙1枚に収まる程度の情報量のマニュアルや動画を整備して業務に当たる人はそのマニュアルと照らし合わせて業務にあたる。といったことをすべきなのではないかと思う。番組を見た感じではそういったことはしていないようなのでうまく回らないは当たり前であると思った。

店主の判断でタイミーを導入したり、営業時間を変更することができるのであれば、配膳を基本的にセルフサービスにしてホールスタッフの人件費コストを下げるということも可能なのではないかと思ったりもした。

個人の時間を確保するために残業時間を積極的に減らそうと努力することは良いことだと思う。
しかしながらそのための準備や仕組みづくりにかける努力が圧倒的に足りていないと思った。根本的な問題が何一つ解決されていない店舗で危ないなと思った。

収益重視型のC店主
C店主の主張は「マンションも買って、子ども2人を私立の学校に入れてるから残業代がないと困る。だから残業する。」というもの。

多くのフィナンシャルプランナーは口を揃えて言うはずだが、残業を当てにした家計のやりくりを考えるのがそもそもの間違い。残業代を引いた収入でどう家計をやりくりするかということを考えるのが先決だと思った。

残業代込みで生活している人の落とし穴とは? Sodan(2017年8月1日掲載)

【残業代を当てにした結果】住宅ローンが返済できない家計が増加!破たんを防ぐ3つのポイント おさいふプラス(2019年5月17日掲載)

「マンションも買って、子ども2人を私立の学校に入れてるから残業代がないと困る。だから残業する。」
というのは正直、その主張は「ちょっとおかしいぞ。」と思った。

そして、もっと深刻な問題があることがその後わかるのだが。
彼は業務を自分一人で抱え込んで、他の人に振り分けていかないというタイプだった。

先程のA店主のところでも述べたが、
多くの賃金労働において重要なことは、誰かが何らかの理由で抜けたとしても、うまくまわしていくことができる仕組みづくりであると思う。業務を独人化し抱え込むことで発生する損害は計り知れない。
そして、社内で本人は自覚なしに迷惑をかけるのがこのタイプである可能性は高い。

「自分がしたほうが早く、失敗なくできるからやる。そして、みんなの仕事が減るからいいでしょ。」
なんて独りよがりな発想なのだろうと毎回こうした社員を目の当たりすると感じるのだが、こうした社員は基本的に自信家でプライドが高く、表面的にはそつなく業務をこなす傾向が高い。本人は「自分はデキる社員」であるという自負を持っている。しかし他の人に業務を振ることができない。平社員で働いているうちは確かに「デキる社員」である。しかし、上に立って人をマネジメントする立場になると、業務を振りわけることができないので仕事は溜まっていく。最終的には自滅するが、その際の言い分は、「自分にばかり業務を振られてしまったことが原因」と他者へ責任転嫁をするのでたちが悪い傾向がある。
※あくまで個人の経験に基づくもので、C店主がそうであるかどうかは言及していません。

C店主は支給額が減るので残業がなくなることには消極的だったが、実際に残業が減った結果、家族と過ごす時間が増えたことに価値を見出した。このことは素敵なところだと思った。

社長のこと
朝の準備時間を1時間短縮させるフローをつくる。決して根性論でどうにかしろというわけでなく、業務をあらいだして、組み方を工夫することで改善したりしているので理論的な方法を指示していると思いました。
また、鶏肉は以前は厨房でカットしていたものを、カットされた鶏肉を使用することで業務の軽減を図る。これも根本的な作業の見直しをすることで現場の負担を減らしているので評価できることなのではないかと思いました。

問題として指摘されていたB店主に「店なくなるよ?」発言ですが、客観的な事実だと思います。
大戸屋 中野北口店 は立地的には恵まれていると思います。それにも関わらず売上が伸びていない、赤字が出ているということは問題であり、このままいくと閉店、撤退を余儀なくされるのは経営者の判断として適切だと思います。
よって、炎上している「店なくなるよ?」の発言のどこが問題なのかよくわからない。

私が、社長と同じ立場ならば今の店主を他の人に変えます。いまのB店主は成果を上げている店舗に配属させて運営方法を学んでもらうということをすぐに行います。

A店主の店では社員から「時給を上げてほしい」という要望が出ました。これを、A店主は社長に伝えるのですが、その結果、時給はあがりました。

私は観ていて、どうせ時給をあげずに、「今の時給で人員配置を工夫しろ」と言うのかなと思いましたが、現場の声に耳を傾けて時給をあげたことは良いことだと思いました。もちろん、テレビの前だけのパフォーマンスなのかもしれません。しかし、そのチャンスを(意図的に?)利用してテレビの前で時給アップを交渉して時給をあげることができたA店主はやはりデキる人なんだと思いました。

C店主に対して社長は「残業を減らすことを努力した人に対して評価して報えるようにしたい」みたいな言っていました。うまい発言だと思いました。どのようなかたちで努力が報われるのかは一向にわかりません。ボーナスが増えるのだろうか。成果を上げた人を評価する評価制度ができるのだろうか。よくわかりません。不安がよぎります。

テトリスみたいな感じで業務の振り分けと整理って大事だよね。
今回の番組をみて、頭をよぎったのはテトリスだった。
職場には様々な業務が降り掛かってくる。それはいろいろな形態をしているので、その業務をよく分析して、適切に振り分けて配置することが重要になってくる。テトリスは、一列きれいに揃えば、消えてなくなる。
現場業務も同じようなもので、現場スタッフが感情的な内容も含めて納得した形で業務を遂行できなければ降り積もったものは消える。だがうまく回らない場合に不満は積もりに積もっていく。降り積もった不満はバイトを退職に追い込み、人手不足を加速させる。どのようにして、納得して仕事をできる環境を整えるか、不満というブロックを消すかがカギになる。

独りよがりで、自分がこなせば良いとただ真下にブロックを落としていけばすぐにゲームオーバーになってしまう。
だからこそ、現場のスタッフメンバーとの対話も必要だし、業務を共有するための仕組みづくりやマニュアルはとっても重要であると思う。一方方向しか見ずに、ブロックを配置するのではなく、様々な視点を考慮して、つまり、ブロックを回転させて、一番現場でしっくり行く方法をみんなで作っていくことが重要になる。

でも、現場にそれをしろと言われても無理な話ではある。
なぜなら、それをするための方法を教わってきていないから。日々の業務の中でどのようにそうした運営をすればいいかわからないから。いちばん重要なところの支援はせずに、店主が独自で考えてやれという形にしている。
私はそこに本社側の無責任さを感じる。どのようなやり方があるのか、どの様なことに気をつけたらいいのか。
そんなことは学校でも学んでいないこと。それを個人の努力でやれと押し付けるのは効率的ではないし、社長として仕組みづくりが雑だと感じた。
番組を観ていて、社長と店主が話し合って問題点を明らかにするということは良いことだと思う。ただ、そのあとに、「じゃあどうする?」と社長は聞くけれども、そんなことはわからないんですよ。そもそも解決方法を知っていたら実行に移しているはずで、こんな問題は発生していない。店主がわかっていない、解決方法がわからないから問題が発生して困っている。そんな人に対して「じゃあどうする?」という言葉の投げかけに愛情は感じられない。

問題点が明らかになったのであればそれに対する解決方法のリソースを社長を含めた本社側は店主に向けて複数提案して模索することが重要なのではないかと思う。店舗が抱える問題の内容や、それをどのように解決したのかという情報は本社が一番持っていて、ノウハウ蓄積があるのにも関わらず、ただ盲目的に自発的に考えさせるのは効率的ではない。

例えて言うならば、「円の面積を求めてね。どうやってする?」と聞くのではなく、
「円の面積を求めてね。円の公式はこれだよ。公式に当てはめて面積を求めるにはどうする?」というように環境を整えることで、円の面積は簡単に求めることができる。番組を観ていて、本社側が持っている情報を出し惜しみしているようにしか見えなくてめんどくさい社長面談だなと思った。資料や考え方を与えることなく解決方法を店主に考えさせるのは投げやりな態度であり、問題解決を向けた対応では無いと思う。ちなみにこの社長面談でブラック企業と判断することはできかねる。また別の次元の話。運営の要領がわるいということ。

シフトづくりについて
シフトづくりは本当に時間を費やすことだと思う。しかし、シフトづくりの基本的な流れは、希望をきいてシフトを作成し、できた仮のシフトを調整して出来上がるもので、それを店主がしなければいけないというルールや根拠はない。
こうした雑務を店主以外の人が担当して、最終チェックを店主が行うというような仕組みづくりができればよいと思う。
個人的には本社側にシフト作成をする部署をおいて、ネット経由でシフト希望をそこに集約して、作成していったほうが効率的だと思う。シフト作成には雇用ルールを熟知して遵守する必要があるので、そうしたプロのシフト作成部隊に店舗のシフトを丸投げしたほうが良いと思う。これだけで残業時間は大幅に削減できる。

今回のガイアの夜明けの大戸屋特集の炎上って、「個人的に大戸屋に恨みがある人によって作られた」炎上なのかなと思いました。かなり偏った見方をしないとあんな炎上意見にならないのではないかと思う。
私は番組をみて大戸屋がブラック企業であるという認識を持つことがあまりできなかった。それよりも、先週ガイアの夜明けで取り上げられた大手企業のマグロのまき縄漁が大問題であること。実は大企業のまき縄漁で違反行為が行われている可能性があること。しかもそれを取り締まる方法が確立されておらずやりたい放題で、政府も腰が重い。といったことがなぜ炎上しなかったのかが不思議ではある。
ガイアの夜明け 追跡!”マグロ激減”の謎

 

 

コラムニスト GORILAX
大学院卒 学術修士。ふと、湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。

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コラムニスト ふと湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。社会学、文化人類学の視点からもアプローチしていきます。