11月29日は何の日?服の日?肉の日?「あなたは従属的な登山者ですか?」

11月29日は何の日か。多くのSNSで挙がっていた写真から判断するに
「1129(イイニク)いい肉の日」だったようだ。
肉料理の写真やお肉料理を食べたという報告が散見された。

一方で、1129(イイフク)いい服の日という見方もできる。
しかし、アパレル関係で盛り上がっている様子をSNSからは伺い知ることができなかった。
その代わり聞こえてくるのはアパレル関係の撤退ニュースばかり。
2019年10月末でForever21の日本撤退、アメリカンイーグルも日本から撤退とのこと。
日本で売れないのだから仕方ない。

フォーエバー21公式サイト

ITmedia「『アメリカンイーグル』年内に国内全店舗を閉店へ 背景にはユニクロの陰」(2019年11月26日 10時14分 公開))

もちろん伸びているところもある。ゴールドウィン傘下のTHE NORTH FACEはここ数年で飛躍的に人気度が増している。また、ラグビーのブームによってCanterburyも認知度が上昇しているようだ。

日本経済新聞「ゴールドウイン、ラグビーW杯で純利益倍増 4~9月期」(2019年11月6日 20:30公開)

成長しているアパレルとそうでないアパレルの違いは何なのか、またなぜ、「服よりも肉」の時代になったのか。
ただ、「華より団子」になったというわけではないと思う。それを読み解く鍵は3つある。

1つ目の鍵はappleとスターバックスにあると思う。この2つの企業に共通することは商品のモノとしての質を高めるのではなくその商品を通してどのような体験・経験(experience)が生まれるのかを重視して運営をしてきた。といってもこのことは結構前からよく語られている。
要は、1つ目の鍵は「自分を高めることができる体験」である。このことが2000年代ごろからの重要なポイントになったのは間違いない。

2つ目の鍵はSNSの存在である。つまり、情報を手に入れる方法と情報を自ら発信する方法が変化したということである。

2000年のゼロ年代から徐々に広がりをみせたSNSも変化してきている。日本でおそらく最初に覇権をとったのはmixiではないかと思う。その後、Facebookへ移行する人が多く、企業や団体の多くがFacebookを活用し始めたことをきっかけに爆発的に普及していった。これとは別の方向でtwitterも日本では人気のSNSになった。いにしえの昔から和歌を嗜む文化があったからなのかはわからないが短い文字数で語ることが日本の多くの人に受け入れられたのは間違いない。

そして、Instagramがここ数年で成長著しい。instagramはFacebook傘下だが、「インスタ映え」という言葉が生まれるほど多くの人に普及したSNSであるといえる。

instagramとともに注目すべきメディアとしてyoutubeがある。
3つ目の鍵は個人のSNSを通した情報発信が利益を生みやすくなったということだ。

いわゆるyoutuberやinstagramerの出現である。youtuberとinstagramerの台頭で変わってきたこととして、個人がSNSに個人の写真をアップすることが多くなったのではないかということだ。以前のSNSでは個人が自分の写真をサイトにアップすることはあまり積極的に行われてこなかった。このことはよく、海外のSNSユーザーと日本のSNSユーザーの比較でも指摘されていることで、日本のユーザーは自身の写真をあまりアップしない傾向にあった。

これが、youtuberとinstagramerの台頭により個人が自身の写真をアップすることに抵抗を感じなくなってきたのではないかと思っている。つまり、ネット上で個人を主張する、個人を売り出すことが以前に増して容易にできるようになっていった傾向があるのではないかということだ。

SNSにおいて象徴的で多くのフォロワーを有し先導していくyoutuberやinstagramerの影響力が強いことは否定できないだろう。彼らのスタイルを真似ることで、SNSの活用方法は変化してきたのではないかと思われる。もちろん、そこには「あわよくば自分も次世代のyoutuberやinstagramerになる」という思いがあることは間違いないことであろう。

そしてこの3つの鍵、「体験」「SNS」「利益化」が結びついた結果何が起こったかというと、
「マウンティングの全世界大会が開幕した」ということだ。

これにより、いままでの消費の構造が180度がらっと変わってしまった、消費の構造が見受けられるようになってきた。

最初の問題提起ででてきた「いい肉の日」が選ばれたのは、マウンティングがしやすいから。売れるアパレルは個人をプラスにイメージさせる体験を想像させるから。そしてそれによってマウンティングの上位に向かえると思われてるから。

今までの消費の構造は「欲しいモノ(消費するモノ)がある」から「利益(お金やつながり)」を手に入れ、「欲しい物」と交換して消費するという流れだったと思う。

簡単に表すと「アレがほしい」→「お金を稼ぐ」→「手に入れる」

新しい消費はその逆である欲しいモノ=利益(お金、つながりとしてのフォロワーやいいねの数)があるから、消費をして、その結果「利益(お金、つながりとしてのフォロワーやいいねの数)」を得る。

簡単に表すと「お金がほしい」→「モノを消費しSNSにアップする」→「手に入れる」

※「お金」と簡単にするために表現しているが、つながりとしてのフォロワーやいいねの数が欲しいというものが含まれている。もちろんそうしたつながりの先にあるのはお金であることもある、当事者にとってはつながりとしてのフォロワーやいいねの数は象徴的な資産であるといっても良い。そのためここでは「お金」のなかに含めた。
つまり、モノが欲しいから利益となるもの(お金やつながり)を作って手に入れる時代から、
利益(お金やつながり)がほしいから、モノを消費して手に入れる時代に変わってきているのではないかということだ。もちろん、この考えが全てに当てはまるわけではない。

しかし、こうした今までとはまったく真逆の構造をした消費の構造が出現したということである。
こうしたことは企業では以前から行われていたと思う。広報というものがそれに当てはまるのではないかと思う。つまり、企業で行われていた広報的な消費構造のようなものが個人の消費構造の中にも組み込まれてきたということである。なぜならば、3つの鍵、「体験」「SNS」「利益化」によって個人が今ではスマホ1つで企業が行っているような広報活動に似た消費を可能にしたから。

恐ろしいのはここからで、企業の場合は収益など複合的に運営面を考えて広報費を考えるのが通常である。
しかしながら、わたしたち個人は、全体の収益などを考えてこうした広報のような消費活動をおそらくしない。

なぜならば、企業の目的は利益を向上することであるが、個人は、広報をすることを目的としている人が多いからだ。その背景には先程触れたマウンティングがある。広報的な消費を加速することでマウンティングの上位を勝ち取ることができる。ある種の目指すべき「こうであったらいいな像」である。

すべての人がそうしたものに突き動かされているわけではない。
しかしながら、そうした思いが0%であるという人はおそらくとても少ない。

目の前に山があれば登りたくなる人はいる。
それが簡単に登れる丘ならなおさら。
昔は険しく眺めるだけだった山脈は、3つの鍵「体験」「SNS」「利益化」でだれもが挑戦できる、なだらかな丘に変わったのかもしれない。

わたしたちはその山を登り続ける「従属的な登山者」なのかもしれないし、その山を作っている「無自覚な造山者」なのかもしれない。

むしろ、わたしたちは山に登りながら、山も高くしていくため、永遠に頂上へ到達できない、もしくは到達してもすぐに違うところに頂上が移ってしまうのかもしれない。

また山の天気は変わりやすいのでちょっと気を抜けば、すぐに荒れたり、炎上もするし、簡単に転落することもあるので注意が必要なのが言うまでもない。

もちろん、「そこに山は見えるかもしれないが、山は無い」と言う人もいれば、「山は死んだ」と言う人もいるし、「山はビッグブラザーの陰謀である」という言う人もいるだろう。

私のスタンスはそのどれでもない。私のスタンスは
「そんなものは楽しんだほうがいいに決まっている」というものだ。

幸いにも?不幸にも、いまの社会の状況は数年でガラリと変化してしまう。今の状況がこの先もずっとつづいていくという保証はあまりないし、セカイはもっとおもしろいことになっていくのではないかと思う。

コラムニスト GORILAX
大学院卒 学術修士。ふと、湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。

参照文献
ハワード・シュルツ, ジョアンヌ・ゴードン 他(2011)『スターバックス再生物語 つながりを育む経営』徳間書店.ジョセフ・ミケーリ(2007)『スターバックス5つの成功法則と「グリーンエプロンブック」の精神』ブックマン社.リーアンダー・ケイニ―(2015)『ジョナサン・アイブ』日経BP.ウォルター・アイザックソン(2012)『スティーブ・ジョブズ1・2』講談社.
GORILAX
コラムニスト ふと湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。社会学、文化人類学の視点からもアプローチしていきます。