RESTAURANT μ 食の構成力がおもしろい。

フレンチやイタリアンといったちょっと値の張るようなコース料理を食べにいくということは何をすることなのかということを改めて考えさせられることになった。

那須にあるRESTAURANT μ(ミュー)https://www.artbiotop.jp/myu/はちょっとかわったレストランである。予約のみでフルコースのメニューを提供してくれる。特典として、「水庭」の見学もできる。星野リゾートの隣にあるリゾート感がある場所で、ちょっと変わったコンセプトの場所である。

ただ、ちょっと「変わっているから凄い」というフェーズからは外れた、「なにかやりたいこと」というものがあり、向かっていこうとしている方向は明確であり、それをどのようにして料理の中で提案していこうとしているのかを垣間見るのが非常におもしろいところだと思う。

始まりはアイスクリームだった。

一番最初の料理は白玉蜀黍(シロトウモロコシ)だった。レディホワイトという品種の白いトウモロコシを使用したアイスクリーム。下に生のレディホワイトの身をおいて、その上に置かれたレディホワイトで作られたアイスクリームそして、振りかけられた粗挽きのブラックペッパー。シンプルな作りではあるけれど、レストランに向かう前に水庭で見学をしていたため火照った身体に響く一品であった。

夏といえば、冷製のスープである。ある意味定番である。しかし、冷たいスープというのはなかなか難しいものだなとも思う。なぜならば、最初の数口はたしかに冷たく美味しい。しかし、後半になるとぬるくなってしまう。そもそも最初に口に入れたスープすらも、口に入れれば体温ですぐに冷たくなくなってしまう。

実際のところ、このアイスを提供した意図はわからないのだけど。自分たちの境遇である「暑い中を来て身体が火照った状況」にまず、アイスで食欲を湧かせる導入は最高の演出であると思った。そして食べていくうちに気がつくのである。このアイスは「口の中で溶けることで最上級の冷製スープになる」ということを。つまり、これはアイスではあるのだけれど、「冷製スープの究極の形態」なのではないかということ。自分の体温によって最高の冷製スープになるという仕掛けは思いつきもしなかったし、身体をクールダウンさせ、食事の時間への切り替えを行うものとして効果的な一品だと思った。

白玉蜀黍

盆栽系あらわれる

海外の食通をうならせる料理みたいなもので、しばしば一般人の度肝を抜いてきたもので私は「盆栽系」と呼んでいるものがある。「盆栽系」はしばしば、植木鉢のような容器に小石のようなものを敷き詰め、その上に、こじんまりとした料理が乗っかっているものを指す。「それって衛生的にどうなのか?」という疑問を持つことが多いが、見た目の突飛さ面白さはピカイチであると思う。またこうした料理は素手でつかんで食べるという方法を採用していることが多い。「手で食べる」という方法を取り入れるという点でその場の空気を和ませることができる。アイスクリームで身体の準備を整えて、次はテーブルでの空気感を整えていこうする試みがうかがえる。決して、形式張った、緊張した場にならないように。リラックスして、目の前にひろがるビオトープの緑を楽しみながら過ごして欲しい。そんな思いが反映されたかのような演出と仕掛けがそこにはあるのではないかと思った。

枝豆とブランダード

こどもの頃の夏の思い出がよぎる

いまや葡萄といえば、シャインマスカットやピオーネ、オーロラブラックなど、様々な品種の大粒の葡萄が主流になっている。だが、子どものころは葡萄といえばデラウェアを想起することが多かったのではないか思う。小粒でありながら種無しの葡萄でよく幼い頃に食べていたという思い出ある。夏といえばデラウェアを食べるというのが思い出であった。つまり、私にとって、デラウェアというのは子供の頃の夏の思い出に登場してくる果物であった。

「フェンネル 縞鯵」という料理は夏をイメージした料理であろう。何故ならば、フェンネルだからだ。「夏」を想起させる爽やかな香りとして「フェンネル」は定番中の定番の素材である。「フェンネル」と聞いただけで、「ああ、夏を表現したいのだな」とわかるほどにわかりやすい記号として「フェンネル」がある。しかし、その「フェンネル」の夏は各自が体験したリアルの夏とどこまでリンクしていくのかというと、なかなかリンクしないのではないかと思う。そもそもフェンネルというハーブはそこまでメジャーなものではないかもしれない。

この料理はフェンネルと様々なハーブ、セロリが絶妙な火入れをされた縞鯵の上にのっている一品。その中に実は皮をむいた緑色のデラウェアの果実も混ざっている。縞鯵、フェンネル、そしてそこにデラウェアの香りと果汁がが合わさることで、いままで「夏」として捉えていたフェンネルの香りが見事に「子どもの頃の夏」の情景を表現することに成功している。定番の季節の香りと、人生の、生活の中で体感した季節の香り融合させることで目を瞑れば、そこには経験にもとづくリアルな夏の懐かしい情景をみることができる。

フェンネル 縞鯵

以上、前半を彩る3品を紹介してみた。もちろんコースはその後も続き、夏をテーマとしつつも、那須高原の魅力を随所に散りばめた品の数々を楽しむことができる。ここでは驚きと発見を実際に行って体験してもらいたいので、その後の品については割愛するがバランス感覚がよく、定番を抑えることで楽しみやすい構成になっていたと思う。ぜひ堪能してもらいたい。

また食事の前に「水庭」での散策をお忘れなく。

RESTAURANT μ(ミュー)https://www.artbiotop.jp/myu/

GORILAX
コラムニスト ふと湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。社会学、文化人類学の視点からもアプローチしていきます。