ぼくの仕事はボクがつくる。『大人は知らない 今ない仕事図鑑100』

 おもしろい本を読んだ。
上村彰子 (著), 「今ない仕事」取材班 (著)『大人は知らない 今ない仕事図鑑100』だ。
小中高生が読むことを想定して書かれている。だが、大人が読んでも考えさせられる。AIやその他の科学技術の飛躍的な進化によって、我々の仕事の多くは消えてしまうと言われている。これは真実だろう。つまり、いまある仕事の中から将来自分がなりたい仕事を選択している状況ではないということだ。これから生まれてくる職業はまだ誰も知らないものかもしれない。だからこそ、その仕事を自分が見出し、作り出すことでその仕事の第一人者として活躍することができるかもしれない。

 社会人になり、企業に就職しても「自分のやりたいと思う仕事ができるようになりたい」と思っている人は多い。
 生きるためにお金を稼ぐため働くという仕事観が、よりよい経験をするために働くという仕事観に変わってきている。仕事という行為に自分がどのような意味付けを行いたいかということが重要視されてきているのではないかと思う。

 最近、よく年配の社員から耳にするのは、「昔はお金のために必死になって働いていた。しかし、今の若い子は違う。お金よりも、時間の質のほうが大事で、休日や仕事以外での時間を大事にしようとする。」

 どんどん闇雲に働けば、それだけで就職している企業からお給料が支払われる。それも年を重ねるごとに給与の額は上昇する。という物語の中で生きていた人にとっては必死に働くことは価値のあることだったろう。

 しかしその物語は少なくとも日本では終焉に向かっている。
 闇雲に働けばそれで良いという時代ではなくなってきた。目の前に存在している仕事のみを見ていても給料は上昇しないばかりか無駄な時間を過ごすことになってしまう、ということに若い世代は気がつきはじめている。もちろん今まで通りそんなことにも気がつかずに黙々と働いている人もいる。むしろ、そちら側の人が多いかもしれない。ただ、仕事ということについてお金以外の価値を求め、人生全体で、どのような時を過ごしたいか自分が満足する、楽しむことができる生き方を模索したいと思っている人は増加傾向にあるのではないかと思う。

 小学校の頃、卒業文集や絵画などで、「自分の将来のゆめ」という形で、自分のなりたい職業をかいたことがある人は多いのではないかと思う。こどもの頃になりたい職業は固定的でベタなものが多い。そうした職業は「こども」が過ごす社会に存在している職業であり、こどもが過ごす社会から離れたところにある職業はこどもにとって存在しないに等しい。
 近年、youtuberになりたいというこどもが多いのは、そもそも、youtuberがこどもが過ごしている社会に存在しているもので楽しそうに働いているように見えるからだ。想像できないものにこどもは将来を投資しようとはなかなか思わない。みじかにあるものから自分にとっての最適解を掴み取ろうとする。

 しかし、いま、仕事は存在する仕事の中から選ぶだけでは不十分である。
 今ある仕事のなかから自分がやりたい仕事を選ぶのではなく、自分がやりたいと思う仕事を創り出していくということをする、これが今の時代なのではないかと思った。

 この本を読んですごいなと思った点として、ただ、これから登場するであろう「今ない仕事」を100件紹介しているわけではない点だ。あくまで「今ない仕事」の事例を100件掲載しているのであって、重要なのは後半のワークである。自分の興味や特技、やりたいことを整理して、自分がやりたい仕事を創造することができるようになっている。つまり、厳密に言うならば、この本は「今ない仕事100+X」である。
 この本を読んで、ワークシートを作成することで自分がやりたい仕事を作り出すことができる。ここにこの本の価値がある。

 このワークを小学校の頃からやり続けることがおそらく重要で、何度もこのワークをすることで、次第に自分のブレないコアが何であるのか、やりたいことは何なのか、ということが見出されてくるのではないかと思う。そしてそれが自分のやりたい仕事を明確に形作ることになるのではないか、と思う。

 こうした作業は就活をしている大学生がよくやっていることなのかもしれない。しかし、就活が終わったあとも続けて行っている人は少ないのではないか。やりたいことを整理することはしていないが、漠然と「自分がやりたいことは何か」、と「自分さがしの旅」にも似た「仕事探し」をしている。もちろんそうしたことでも、ふとしたきっかけで自分のやりたい仕事に出会うことはある。しかし、出会わない人も多い。「自分のやりたい仕事」を探したいけれど、まだ巡り合っていない。
 結局のところ自分がやりたい仕事が何なのかよくわからないという人にとってもこの本は仕事について考えるきっかけになるのではいかと思う。

GORILAX
コラムニスト ふと湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。社会学、文化人類学の視点からもアプローチしていきます。