うまく辞めるための、おまじない。転職呪術からはじまる廻戦へのモチベーション

俺、この木の葉っぱがすべて落ちたら会社、辞めるんだ。

会社をいつ辞めるか。このタイミングを見つけるのはなかなか難しい。だから私は願掛けをして、いつ会社を辞めるのかを決めたことがある。

従業員が使用するロッカールームの入口付近には大きなゴムの木があった。一日中照明はついていて明るいが窓のないロッカールームの前は光が足りていなかったのかもしれないし、水のやりすぎだったのかもしれない。1年が経ったころからゴムの木は次第に、元気がなくなりはじめた。

私は、このゴムの木が枯れてすべての葉っぱが落ちるときに退職しようと思った。退職するタイミングが分からず、願掛けをしたのだ。

様々な業務を私は担当していたため、どのように他の人へ引き継ぐかが難しかった。と言うのも、コアで働いている人が次々と辞めていき、業務を取りまとめて運営していた9人中6人がパラパラと退職してしまったからだ。ちなみに営業所長は精神を病んで休職中。当然、業務の負荷は重たくなる。もちろん、新しく入ってくる人もいたが定着しないので、人を取りまとめて運営する側の人材は枯渇していた。そんな中、3人でなんとか業務を回していたのだが、そのうちの1人が部下とのちょっとしたトラブルで退職することになった。その後、コアメンバーは私と彼女のみとなった。彼女は3日後には音信不通になり、出勤してこなくなった。

運営側の見習いが2人ほどいて、その人たちとなんとか業務を行っていたが、私も転職先の内定がでたので、そろそろ退職の話をしたいと思っていた。

だが、なかなか話を切り出すことはできない。

以前、この木の葉っぱがすべて落ちたら会社を辞めると願掛けしたゴムの木をみると、葉っぱは4枚だけ残ってた。葉っぱに触れると、ハラリ、と1枚落ちた。

次の日、職場は崩壊した。業務を回すことができる人材を確保できなかったからだ。
本社が近県の部署から応援を派遣し、上席のスタッフとともにリカバリをすることになった。

その後、私は退職願を提出した。彼らに業務を連携して会社を退職した。

退職する日にゴムの木には1枚の葉っぱがあった。指で触れると、これもハラリ、と落ちた。

退職して1ヶ月後ぐらいに離職関連の書類をもらいに総務に行ったことがある。総務の人は「もうめちゃくちゃで酷いです」と言い、目が潤んでいた。相当キツいことになっているのではないかと思った。

どこにでもありそうな企業のはなし。
どこにでもありそうな観葉植物。
だれもがやってそうな願掛け。

転職先の会社で、給湯室前に観葉植物が置いてあった。運命に引き寄せられたかのにように、枯れたゴムの木と同じ品種のものだった。だが、少し大きい。

ゴムの木は元気に生育し、若い葉っぱがたくさんでていた。
私はこのゴムの木が元気なうちは頑張って働こうと思った。これは新たな願掛けであり、どんなにくだらない仕事や職場での人間関係があってもそれを投げ出さず、心のスイッチをOFFにして仕事をしようと決めた。

それから数年後、今年に入った頃からあんなにもイキイキとしていたゴムの木の元気がない。水やりができていないのかと思い、土を触ると湿っているので、そうではないらしい。

4月になって残っている葉っぱは20%ほど。今ついている葉っぱも元気がなく、枯れて落ちそうなものばかりだ。

ゴムの木が「そろそろ退職してもいいんじゃない?」とメッセージを送っているようにしかみえなかった。

GORILAX
コラムニスト ふと湧きだす好奇心から、いろんなセカイを巡るのが好き。実際に現地に足を運んで、海外のイベントや食、文化についてのコラムを執筆したり、国内の「面白いもの」について紹介していきます。社会学、文化人類学の視点からもアプローチしていきます。